ごめん、やっぱすき

うまく言えないけど。

インターセプト

傘を持たない蟻たちはに収録されている6編のうち私が特に気に入ったものが3つある。インターセプト、Undress、染色の3つ。今回はインターセプトについて感じたことを、忘れないうちに残しておこうと思う。わりとネタバレも含まれると思うので嫌だという人には閲覧しないでほしい。






キックオフ、と記されて始まった前半。勝ち気な性格、管理職としての地位、ステータス重視。小説の中において私はそんな人物が出てくると浅はかに期待する。あ、この人堕ちるな、とすぐに感じてしまう。それは小説を読む人は簡単に分かってしまうだろうし文章を読み慣れていなくても話の展開としてそんな性格の人が最後まで一人勝ち状態で進むことは少ないだろうからぼんやりとそんな気は感じると思う。私は特に転落していく過程がどれだけ緻密か期待してしまう。そんなわけで期待して読み始めた。

目の前に現れたのはまたも自信家で自分の武器を分かっている女。行動心理学で得た知識をフルに発揮してモノにしていこうとする男。すごく楽しかった。さらりとかわされることにすら興味をそそられるあたりではつい相手の女のような高飛車な態度がうつってしまい、その単純さにクスッとせずにはいられなかった。

そうして前半終了間際。女のペースに乗せられがちだった男が最後の最後でまたも行動心理学を駆使し自分のペースに持ち直す。しかし前半が終了したときには私の中にどろりとした、濡れた服が肌にまとわりつくような気持ち悪さが生まれていた。

後半部分にはターンオーバー、となり視点は女の側へ。得体のしれない不安が明確な恐怖に上書きされる度に加藤シゲアキという作家自身の歪みに感動せずにはいられない。知らないあいだにその女(および加藤シゲアキの描くその女)の手のひらで転がされていたことを知った時には私はもう嬉しくてたまらなかった。なんてひねくれた純粋さだろう!真っ直ぐで素直なその狂気!そんな愛おしくて恐ろしい女を加藤シゲアキが生み出したと思えば思うほど私は嬉しくてたまらなかった。そして同時に彼がアイドルと小説家を両立することを賞賛し受け入れることの出来る時代に生まれたことを感謝した。

まさに相手の強み、パスを奪うといういった展開に、あらためて彼の野生的で真っ直ぐな感性が好きだと思った。特にヲタクにとっては逃げられないような作品だと思う。是非読んでいただいて、真っ直ぐな狂気を感じて居心地の悪さを感じて欲しいと思う!!